WITH句
WITH句は、SQLのクエリ内で一時的なテーブルを定義するための構文です。これにより、複雑なクエリをより小さな部品に分割し、再利用可能なテーブルを作成できます。サブクエリとの違いは、WITH句で定義された一時テーブルがクエリ全体で利用できる点です。
今回はPostgreSQLの環境で説明していきます。
WITH句の構文と基本的な使い方
WITH句は次のような構文を持ちます:
WITH 一時テーブル名 AS (
SELECT 列1, 列2, ...
FROM テーブル名
WHERE 条件
)
SELECT ...
一時テーブル名には、一時的なテーブルの名前が指定されます。その後、そのテーブルを使用してクエリを実行します。WITH句は、複数の一時テーブルを定義することもできます。
例:売上データの解析
売上データを例に挙げて、WITH句の使用例を見てみましょう。以下のクエリは、地域ごとの売上データを解析し、平均売上を超える地域を特定します。
DDL
-- ordersテーブルの作成
CREATE TABLE orders (
id SERIAL PRIMARY KEY,
region VARCHAR(50),
product VARCHAR(50),
quantity INTEGER,
amount NUMERIC(10, 2)
);
-- データの挿入
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('East', 'Product1', 10, 100.50);
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('West', 'Product2', 5, 150.75);
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('North', 'Product3', 8, 120.25);
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('South', 'Product4', 15, 90.80);
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('East', 'Product1', 12, 110.60);
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('West', 'Product2', 6, 160.90);
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('North', 'Product3', 9, 130.75);
INSERT INTO orders (region, product, quantity, amount) VALUES ('South', 'Product4', 16, 95.25);
WITH句を使用した場合
WITH regional_sales AS (
SELECT region, SUM(amount) AS total_sales
FROM orders
GROUP BY region
), top_regions AS (
SELECT region
FROM regional_sales
WHERE total_sales > (SELECT SUM(total_sales)/10 FROM regional_sales)
)
SELECT region,
product,
SUM(quantity) AS product_units,
SUM(amount) AS product_sales
FROM orders
WHERE region IN (SELECT region FROM top_regions)
GROUP BY region, product;
region | product | product_units | product_sales
--------+-----------+---------------+---------------
East | Product1 | 22 | 2111.10
North | Product3 | 17 | 1300.00
South | Product4 | 31 | 1965.25
WITH句を使用しない場合
WITH句を使用せずに同じクエリを実行すると、サブクエリを使用して同じ結果を得ることができます。以下は、WITH句を使用しない場合の例です。
このクエリは、WITH句を使用した場合と同じ結果を返しますが、サブクエリを使用しているため、読みやすさが低下し、コードのメンテナンスがやや困難になります。
SELECT region,
product,
SUM(quantity) AS product_units,
SUM(amount) AS product_sales
FROM orders
WHERE region IN (
SELECT region
FROM (
SELECT region, SUM(amount) AS total_sales
FROM orders
GROUP BY region
) AS regional_sales
WHERE total_sales > (
SELECT SUM(total_sales)/10
FROM (
SELECT region, SUM(amount) AS total_sales
FROM orders
GROUP BY region
) AS subquery
)
)
GROUP BY region, product;
メリット
- 可読性の向上: WITH句を使用すると、クエリがより読みやすくなります。一時テーブルがクエリの先頭に定義されるため、メインのクエリ部分は簡潔になり、複雑なロジックが一目で把握できます。
- メンテナンス性の向上: WITH句を使用すると、同じ一時テーブルを複数のクエリで使用する場合でも、一度定義すれば複数のクエリで再利用できます。そのため、テーブルの変更があった場合やクエリのロジックを修正する必要がある場合でも、変更箇所が限られ、メンテナンスが容易になります。
- 再利用可能なテーブルの作成: WITH句を使用すると、一時テーブルを定義し、それを複数のクエリで使用できます。この機能により、同じ計算や処理を繰り返し実行する必要がなくなり、コードの重複を避けることができます。
デメリット
- パフォーマンスへの影響: WITH句を使用すると、一時テーブルが実行時に生成されるため、大規模なデータセットに対してはパフォーマンスに影響を与える可能性があります。特にWITH句内で複雑な処理を行う場合や、複数のWITH句が組み合わさる場合には注意が必要です。
- スコープの混乱: WITH句で定義された一時テーブルのスコープは、WITH句のクエリ内に限定されます。そのため、WITH句で定義された一時テーブルを他のクエリ内で使用することはできません。この制約を理解していない場合、意図しない結果やエラーが発生する可能性があります。
まとめ
PostgreSQLのWITH句を活用することで、クエリをよりスマートに分割し、効率的に記述することができます。今後もWITH句を使ったクエリの勉強と解説を続けていきたいと思います。
参考文献
PostgreSQL公式ドキュメント(日本語訳版): 7.8. WITH問い合わせ(共通テーブル式)
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